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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1018号 判決 1955年7月20日

控訴人 平田欽爾

被控訴人 石島虎男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、平塚市平塚新宿一、三三九番地の三宅地一二七坪二合六勺の換地予定地同所同番地の三概算一〇〇坪(街区二一、番号13)所在木造亜鉛葺二階建総建坪一二坪の家屋を収去してその敷地(右換地予定地中同街区同番号、符合3該当箇所)を明け渡せ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は<立証省略>、すべて原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

控訴人が従来平塚市平塚新宿一、三三九番の三宅地一二七坪二合六勺を所有していたが、昭和二四年一二月一九日平塚市特別都市計画により右土地に対する換地予定地として同所同番の三概算一〇〇坪(街区二一、番号13)が指定され、次いで昭和二八年一一月三日右換地予定地の一部につき使用開始の通知を受けたこと、及び控訴人が使用開始の通知を受けた右換地予定地中の一〇坪(同上街区番号中符号3該当箇所)の地上に被控訴人が木造亜鉛葺二階建総建坪一二坪の家屋を所有し、該土地を占有していることは、当事者間に争がない。

しからば、控訴人は特別都市計画法第一四条の規定によつて、右換地予定地指定の通知を受けた日の翌日たる昭和二八年一一月四日から換地処分が効力を生ずるまで、右換地予定地について、従前の土地に存する所有権者としての使用収益権を取得したものというべきである。よつて右換地予定地の一部たる前記一〇坪の占有について被控訴人がいかなる権原を有するかを考えるに、控訴人が従前の土地の上にかつて家屋を所有し、その一部を被控訴人に賃貸していたところ、昭和二〇年七月一六日空襲によつて右家屋が焼失し、被控訴人が同年九月頃その焼跡にバラツクを建ててこれに居住していたことは当事者間に争がなく、原審並びに当審における証人塚本シズの証言及び被控訴人本人尋問の結果(いずれも原審での第一、二回とも)を綜合すれば、控訴人は終戦後度々焼跡に来て被控訴人の前記バラツク建設を目撃しながら、被控訴人に対しなんら異議を申し出でたことがなかつたのであるが、昭和二一年暮頃被控訴人は新聞紙上で罹災建物の借主はその敷地を賃借しようとするためには地主にその旨申出をしなければならないことを承知し、昭和二二年八月頃内縁の妻塚本シズを代理人として、控訴人をその疎開先たる肩書地に訪ね、控訴人の妻を通じて控訴人に対し、前記罹災建物の敷地を建物所有の目的で賃借したい旨の申出をなさしめたところ、これに対し控訴人からなんら拒絶の意思表示がなかつたことを認めることができる。右認定に反する当審証人平田テツの証言並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果は当裁判所の信用し難いところであり、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

しからば、被控訴人は罹災都市借地借家臨時処理法第二条第二項の規定により、おそくとも昭和二二年九月中に相当な借地条件で罹災建物の敷地に対する賃借権を取得したものといわなければならない。

而して成立に争のない甲第八号証の一、二、三、原審証人塚本シズ(第一回)の証言を総合すれば、右敷地に対する換地予定地の指定通知が昭和二四年一二月一九日頃賃借権者たる被控訴人にもあつたので、被控訴人は昭和二五、六年頃前記バラツクを解体してこれを換地予定地たる本件土地の上に移築したことが認められる。してみれば、被控訴人は特別都市計画法第一四条第一項の規定により、右通知のあつた日の翌日たる昭和二四年一二月二〇日頃から換地処分が効力を生ずるまで、換地予定地たる本件土地につき、従前の土地(前記罹災建物の敷地)に対し有する賃借権と同一内容の使用収益をなす権利を取得したものと解すべきである。尤も被控訴人に対する前記換地予定地の指定が昭和二七年四月一〇日神奈川県知事によつて取消されたことは、当事者間に争のないところであるが、右指定の取消はその効力がないものと解すべきである。けだし、右換地予定地の指定は、前述の如くこれにより従前の土地の所有者及び関係者に対し換地予定地に対する使用収益権を附与するものであるから、右指定をなした行政庁もこれに拘束せられ、特に公益上の必要等特別事情のない限り、単に調査不十分等の理由で、みずからなした処分を取消し、当事者のすでに取得した権利を害し得ないものといわなければならない。

しからば、被控訴人の本件換地予定地の占有がなんら権原に基かないものであることを前提として、被控訴人に対し建物の収去土地の明渡を求める控訴人の本訴請求は、その余の争点に対する判断をなすまでもなく失当であるから、これを棄却すべく、これと同趣旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克已 菊池庚子三 吉田豊)

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